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2024.07.12
【指定商品と禁反言】ROBOT SHOP商標権侵害訴訟
ROBOT SHOP事件(大阪地裁令和5年12月14日、令和2(ワ)7918)を解説します。ロボショップ株式会社による「ROBOT SHOP」の使用が商標権侵害か争われた事件です。商標の出願過程での補正で削除した指定商品についての商標権侵害の主張が禁反言により許されないとされました。この事件の前に、”メタバースにおける石鹸”が指定商品として適切かが争われた異議申立事件も紹介します。
1.番組概要
「ゆるカワ♡商標ラジオ勉強会」複雑に入り組んだ商標業界に緩やかなメスを入れ、様々な謎や疑問を優しく究明する「ゆるカワ♡商標ラジオ」毎週木曜日22時〜配信📢
2024年7月11日
2.”メタバース上の石けん”は不明確?
01:45 「メタバースにおける石鹸(第3類)」との表示が指定商品として不明確と主張された異議申立事件です(異議2023-900266)。指定商品が明確であることは商標登録の要件(商標法6条)の一つですが、この要件違反であっても登録後に異議申立で争うことはできません。そこで、申立人は使用意思の欠如(3条1項柱書)および公序良俗違反(4条1項7号)を理由に争いました。
特許庁は結論的にはこの主張を認めませんでしたが、「区分に従って指定したものといえないものであるから、当該指定商品の表示は適切な表示といえない。」と述べました。具体的には、「メタバースにおける石鹸」とは、メタバース上の店舗で販売される「現実のせっけん(第3類)」とメタバース上のキャラクター等が使用する「仮想のせっけん(第9類)」が考えられる旨を示しました。
つまり、異議申立では6条違反を争えないため登録が維持されましたが、この事件の特許庁の考え方に基づくと、今後の審査では「メタバースにおけるせっけん(第3類)」は6条違反になると理解できます。
3.包袋禁反言の原則~ROBOT SHOP事件で考える~
07:41 商標権侵害訴訟での主張が商標出願の経過において意見書で主張した内容と矛盾している場合、包袋禁反言として主張が認められないことがあります。本件で原告は、商標登録前の審査において識別力を否定する拒絶理由通知書を受け、手続補正書で拒絶対象の商品役務「工業用ロボット」等を削除することにより商標登録に至った経緯があります。この出願経過に基づき、裁判所は、削除された「工業用ロボット」等と類似する商品(ロボット類似品)に対する商標権侵害の主張は許されないと判断しました。
意見書で主張したわけではないものの、手続補正書での補正で削除した商品等についての権利行使が禁反言により許されないというのは珍しいように思います。これを避けるには、原告は意見書等で反論する必要があったと考えられます。拒絶対象外の商品役務について早期権利化をしたい場合には、拒絶対象について分割出願をした上でじっくり反論することができます。
4.指定商品の類似
本件で、ロボット類似品以外の多くの商品に対しては侵害が認められました。その前提として、原告商標権の指定商品役務と被告商品が類似と判断されています。商品が類似するか否かについて、特許庁の判断基準に比べて、ざっくりと判断されています。具体的には、指定商品「電子応用機械器具及びその部品」が被告商品の「ドローン用部品」や「3Dプリンタ」と判断されました。
特許庁では、類似商品・役務審査基準における類似群コードや商品及び役務の区分解説に沿って厳密に解釈され、審理方式も職権主義です。裁判では、このような判断基準に縛られず審理方式も当事者主義であるため、特許庁と異なる判断があることはよくあります。本件でも被告は審査基準や区分解説に沿った主張はしていないようです。
しかし、指定商品の範囲が区分等により定まることは、法令(商標法6条、商標法施行令2条、商標法施行規則6条)の根拠があるものであるため、類似性の判断でも無視できないと考えられます。また、特許庁の類似商品・役務審査基準は施行規則の別表及び最高裁判例に沿っています。そして、商品の類否は法的な評価に該当するといえます。したがって、当事者の主張がないにしても、特許庁の判断基準とかけ離れた判断手法を認めてよいかには疑問があります。
とはいうものの、現実の裁判では当事者の主張次第で結論は大きく変わるのだろうと思います。このため、実務的には勉強になる事例です。
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