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2022.03.25

ルブタンのレッドソール判決(色は商標になる!?:Vol. 37)

判決文はコチラ

動画解説はコチラ

この記事は知財系ライトニングトーク #16 拡張オンライン版 2022 春での発表です。


1.結論

ルブタン(原告ら)の請求棄却。原告商品の特徴(靴底赤ハイヒール)は周知性がなく「商品等表示」に該当しないため、被告商品の販売は不競法2条1項1号に該当しない。つまり、ルブタンから被告に対する差止請求や損害賠償請求が認められなかった

 

2.背景

法改正により2015年4月1日から色彩商標の出願受付が開始した。色彩商標が登録されれば、形や模様に関わらず色だけの独占をすることができる。この日から国内外の企業がこぞって色商標の出願をしてきており、合計数は562件にも至る(2022/4/5現在。以下同じ)。しかし、色のみの商標は識別力がないとして登録にならないのが原則である。色は本来的に特定の企業の商品等を想起させるものではなく、かつ、1社の独占により他社が使えなくなると困るためである。例外的に登録できるのは、継続的な使用により「この色といえば、あの商品」等といえる程に著名になっている場合である。上記560件の出願のうち、登録に至ったのは僅かに9件である。

 

【登録に至った色商標一覧】

この一覧から理解できるとおり、登録に至ったのは、いずれも2色以上の組み合わせであり、単色で登録になったものはない。ルブタンの単色の商標出願についても、識別力がないとして拒絶査定となり、不服審判にて現在も審理中である。

 

【ルブタンの商標出願】

商願2015-29921

 

このように単色の独占の可否が注目されている中で、これを争う訴訟があった。具体的にいうと、不競法に基づき、上記出願商標とほぼ同一の特徴(靴底PANTONE 18-1663TPGの赤ハイヒール)を原告表示とし被告商品に対して販売中止等を求める訴訟があり東京地裁が判決を下した。これは色のみの商標が登録できるか否かの裁判ではなく、ルブタン以外の会社がレッドソールのハイヒールを市場で使用できるか否かが争われた裁判である。

 

3.判決理由の要約

 裁判所は商品の色※が商品等表示に該当するためには①特別顕著性及び②周知性が必要とし、かつ、以下の規範(判断基準)を示している。

 

「…そうすると、商品に関する表示が複数の商品形態を含む場合において、その一部の商品形態が商品等表示に該当しないときは、上記商品に関する表示は、全体として不競法2条1項1号にいう商品等表示に該当しないと解するのが相当である。」

(※裁判所は「商品の形態(色彩を含むものをいう。以下同じ)」と表現しているが、この記事では簡略化して色という。)

 

この規範を正確に捉えるためには、原告が特定した商品の特徴(原告表示)と現実の原告商品とのズレを認識する必要がある。筆者の理解に基づき、この規範を意訳すると以下となる。

 

「原告が特定した商品の特徴に複数の特徴(例:特徴abc…)が含まれる場合、そのうちの1つの特徴(例:b)に①特別顕著性及び②周知性がなければ、原告が特定した商品の特徴は全体として商品等表示に該当しない。

上記規範の本件の当てはめは次のとおりだ。原告が特定した商品の特徴(原告表示)には、光沢の有る赤色と光沢の無い赤色を含むと認定し、光沢の無い赤色について②周知性を認めなかった。

また、以下の事実などからも、使用期間がそれほど長期間とはいえず、極めて強力な宣伝広告が行われているとまではいえないとして、原告表示の②周知性を否定した。

・原告商品の販売期間が約20年であること

・自ら広告宣伝費用を払ってテレビ、雑誌、ネット等による広告宣伝を行っていない事情

 

さらに、以下の事実等に基づき、原告赤色と似た赤色は一般的なデザインとなっているものといえるとして、原告表示の①特別顕著性を否定した。

・原告赤色と似た赤色は、ファッション関係においては国内外を問わず古くから採用されていること

・現に、女性用ハイヒールにおいても、原告商品が日本で販売される前から靴底の色彩として継続して使用され、現在、一般的なデザインとなっているものといえること

 

なお、判決文から読み取れる限り、少なくとも526の証拠を提出している。

 

4.注目判断(岡村選)

(a)アンケート

裁判所は原告商品と被告商品の現物における光沢や質感の違いを重視したようである。商願2015-29921で提出されたアンケートについても現物を使っていないことを理由として裁判所は適切でないとしている。裁判所の説明からすると、被告商品の現物を確認させるアンケートであれば考慮されたものと考えられる。

 

(b)使用期間

使用期間約20年というのがそれほど長くないとされている。一方、商品形態について使用期間(原告の使用開始から被告の使用開始まで)が1年半で商品等表示に該当するとの判断の上で差止が認められた事例もある(知財高裁平成30年(ラ)第10008号等)。この事例におけるSIXPADのトレーニング機器は特徴的な形であると思われるため、②の周知性の判断のための使用期間の評価は①の特別顕著性と関連していると考えられる。つまり、一般的な色の単色を保護するためにはそれ相応の使用期間が必要であるといえそうだ。

 

5.出願方法の検討

本件では、原告が特定した商品の特徴(原告表示)が広いため原告商品を超える部分について周知性がないとされた。ここで、原告表示を”光沢有り”に限定すれば、周知性が認められたかもしれないが、被告商品はその特徴を持たない事になる。そうすると、結局、不正競争とならないだろう(光沢及び質感の点で明らかに印象を異にすると裁判所が判断しており、類似と認められないと考えられるため)。

 

しかし、上記の光沢等の重視は本件訴訟の判決が出て初めて明らかになったことである。そもそも不競法では確定した権利があるわけではないため商標権がある場合と比較すると交渉で解決し難いと思われる。商願2015-29921の商標は出願から約7年が経過した現在でも登録になっていない。この出願商標よりも狭い範囲に限定してでも商標登録できていれば、交渉段階で製造販売を中止できた可能性もあったであろう(たとえ光沢の有無の違いがあったとしても)。

 

そこで、具体的な出願方法として以下のア.及びイ.を検討した。

 

ア.色彩商標

審査便覧上、「金色、銀色等のメタリックカラー及びパールカラー並びにこれらに準ずる色彩」は認められているため、ルブタンの光沢ある赤色が「メタリックカラー及びパールカラー並びにこれらに準ずる色彩」に該当し、かつ、一般的に使用される色見本帳に記載されているのであれば可能である。

 

【審査便覧の例の抜粋】

 

イ.位置商標

位置商標が登録されれば、色彩商標と異なり形も権利範囲に含まれる。位置商標では、色見本の指定等は不要であり、図や写真により光沢有りを表現することができれば”光沢”も特徴として含めることができる。また、光沢の有無にかかわらず、位置商標の方が色彩商標よりも識別力の点で登録のハードルが低いと考えられる。それで登録になった場合、靴底の形が権利範囲に入る。しかし、結局、原告商品と被告商品の靴底の形は類似に見えるため、被告としては厄介な権利となる。

 

実際に、特定の位置について色彩商標と位置商標の両方で権利化を試み、位置商標のみについて登録されている例がある。

詳細情報(商願2015-29911)

詳細情報(登録6118238)

 

右の位置商標では、不服審判にて赤色も特徴の一つとして評価され識別力を獲得したと判断されているように窺える。

 

6.最後に

原告の主張について筆者が注目するポイントが2つある。

 

(1)ルブタン”のような”

原告の類似性の主張の理由の一つに以下の事実の提示がある。被告商品やその同種商品と思われる商品について、「ルブタンのような底が赤いのが気に入って購入しました!」や「ルブタンのようなレッドソールに引かれ購入しました」などと転売者によって紹介されている。

 

これは需要者が商品の出所を混同していないこと(ルブタンとは異なるメーカーによる商品だという理解)を示す事実になってしまわないのだろうか…?

 

(2)販売中止措置

原告は他の事業者に対して赤色靴底ハイヒールの販売中止を求める措置をしてきており(甲464~471)、そのうち1件は裁判上の和解により製造販売を中止させている。

 

この販売中止の要求の根拠として、商標の出願(商願2015-29921)は利用できない。拒絶され現在も審査中で未登録のためである。おそらく、上記要求の根拠は本件訴訟と同じ不競法2条1項1号だと考えられる。しかし、本件訴訟でこの同号に該当しない判断がなされたため、結果論でいうと法的根拠がなかったと考えられる(控訴審で結論が変われば根拠ありとなるが…)。

 

このようなグレーな場合、上記のとおり交渉や訴訟の途中で製造販売を中止する企業の方が多いように思う。そうなると言ったもん勝ちみたいになり残念ではあるが、本業への影響やコストの点で闘うことは容易ではないからであると推察される。

 

本件訴訟の被告のように判決が出るまで闘う企業には漢気を感じる。

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