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2022.09.16

「餃子の王将 vs 大阪王将」事件~昭和と平成の裁判を”どこよりも深く”解説~

初めまして!弁理士試験勉強中の「おのの真弓」です♡ 「ゆるカワ♡商標ラジオ」を聴いて勉強しながら、brandesign でライターとして記事を執筆させていただくこととなりました。ラジオとともに成長していきます!どうぞ宜しくお願い致します♡

 

今回のテーマは「餃子の王将(京都王将)」と「大阪王将」です。

 

いずれも餃子が有名で、大阪王将の冷凍餃子を体験したことがある方も多いはず♡ 私の子供も大好きで、夕飯の献立で悩んだときはとてもお世話になっています。美味しいし、何より手軽!保育園へ子供を迎えに行った後からでもサッと用意することができる、素晴らしい発明品…!

 

ところで両社はどちらも「王将」という名前ですし、関連会社なのかな?などと思った方もいることでしょう。そして知的財産に詳しい方は、混同が生じないのかな?商標で問題になるのでは?といった疑問もあるかと思います。

 

そこで本記事では、”餃子の王将”と”大阪王将”の違い、関係性、紛争等の両社のストーリーを裁判例を交えて紹介します。岡村弁理士による事件の説明は是非 Youtube 動画「ゆるカワ♡商標ラジオ」をご視聴ください。アシスタントによる軽快なトークも必聴です♡

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まとめ

・【昭和44年】「①餃子の王将(当時は京都王将)」からのれん分けをしたのが「②大阪王将」

・【昭和60年:昭和の裁判~②大阪王将が ”王将” 等の表示を使用できるか否かの争い~】両社間で混同が生じてしまい、不正競争防止法に基づいて①餃子の王将が裁判を提起。表記を「餃子の王将」「大阪王将」と分けることとして和解が成立。

・【平成18年:平成の裁判~商標登録が維持されるか否かの争い~】

①餃子の王将(京都王将)側が保有する餃子の王将(ロゴ)、元祖餃子の王将の無効審決に関し、それぞれ審決取消訴訟(平成18(行ケ)10519、平成19年(行ケ)10091)を提起。いずれも審決が覆る形となり、餃子の王将(ロゴ):有効、元祖餃子の王将:無効 となった。

 餃子の王将(ロゴ):商標登録第4868675号 元祖餃子の王将:商標登録第4559956号

・【令和4年】基本的にどちらの餃子も美味しい。

 

各事件の中身について紹介していく。

「餃子の王将 vs 大阪王将」事件①:昭和の裁判

(争点:不正競争防止法第1条1項1号,2号(現:第2条1項1号,2号))

 

のれん分け後、両社は「京都王将」「大阪王将」としてそれぞれ商いを営んだ。国民に美味しい餃子を提供したいという思いは一致していたのであろう。②大阪王将が①京都王将から原材料を購入するといった契約を両社間で結んでいたとのことである(真偽は不明。裁判時における②大阪王将側の裁判上の主張による。)。

 

しかし「王将」という名前が共通していることから、仕入れ配達の誤配送や顧客トラブルが発生してしまった。いわゆる「混同」が生じていたようである。

 

そこで、①餃子の王将(京都王将)から訴訟の提起へと至る。商標権等の「権利」に基づく訴訟ではなく、「周知な名称の無断使用による混同」を規制する不正競争防止法に基づく訴訟である。

 

残念ながら当時の裁判書類は現在閲覧不可だが、和解調書と当事者の請求・主張だけ入手できた。

 

『①京都王将側が「餃子の王将」、②大阪王将側が「大阪王将」又は「中華王将」と表示する』という和解内容である。名前を変えれば棲み分けがなされて、混同が生じなくなるよね、ということだ。

和解調書(出典:無効2005-89164の甲第44号証より)

 

和解後は両社順調にビジネスを拡大。昭和57年に店舗数100店であった大阪王将は、和解から20年後の平成18年には店舗数150店へと拡張していく。(参考:大阪王将とは|大阪王将 HP)

 

そしてちょうどその頃、両社は商標登録に基づく裁判で再び争うこととなる。

「餃子の王将 vs 大阪王将」事件②:平成の裁判

(争点:商標法第4条1項11号)

 

事件の概要

 

餃子の王将が有する2件の商標登録について、それぞれ審決取消訴訟が提起された(判決文はこちら)。

 

事件A:餃子の王将(商標登録第4868675号)に関する無効審判認容審決(= 商標登録:無効)に不服の①餃子の王将が、審決の取消しを求めて提起した裁判。

事件B:元祖餃子の王将(商標登録第4559956号)に関する無効審判棄却審決(= 商標登録:有効)に不服の②大阪王将が、審決の取消しを求めて提起した裁判。

事件A(平成18(行ケ)第10519号)

・争点:餃子の王将(ロゴ:商標登録第4868675号)は、先願登録商標(商標登録第1673048号等)の存在によって、商標法第4条1項11号による無効理由(46条1項1号)を有するかどうか。

・判決:無効とする審決を取り消す(= 商標登録第4868675号は有効)。

大阪王将側が持っていた先願登録商標は「大阪王将」ではなく「王将」であった。これらと、餃子の王将(ロゴ)は類似するから、出所混同を避けるためにも、後願である「餃子の王将」(ロゴ)は本来登録されては駄目だろう?というのが大阪王将側の主張であった。

 

いずれも同じ「王将」が含まれていることから、特許庁の判断においては、「餃子の王将」(ロゴ)の登録は「無効」となった。

 

一方、本裁判においては、無効が取り消し…つまり商標登録が維持される判決となった。「餃子の王将」(ロゴ)と先願各登録商標(王将)は少なくとも観念が同一であるものの、指定商品を中心とした取引の実情を踏まえると、商品の出所に誤認混同をきたすおそれは無く、互いに類似する商標であるということはできないと判断されたためである。

 

より詳細な理由は以下のとおりである。

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<餃子の王将(ロゴ)と先願各登録商標(王将)との類否判断>

 

(外観:区別しうる)

餃子の王将(ロゴ)は、左側に赤の色彩を施した「餃子の」の文字を配し、その右側に「王将」の文字を三重括弧 <<< >>> で挟んでいる。一方、先願登録商標1,2はいずれも「王将」の文字であり、先願登録商標3は将棋の駒の内部に王将と書かれたものである。

 

よって、外観上、餃子の王将(ロゴ)と先願各登録商標(王将)とは区別できる

 

(称呼:場合により同一)

餃子の王将(ロゴ)は、「王将」の文字部分を「餃子の」の文字よりも大きく書きまた三重括弧等で強調しているとしても、「餃子の」の文字部分も存することからすれば、餃子の王将(ロゴ)の強調する「王将」の文字部分から「オウショウ」の称呼が生ずることは否定しえないものの、「ギョウザノオウショウ」の称呼も同程度に生じる。一方、先願各登録商標(王将)からはいずれも「オウショウ」の称呼が生じるのみである。

 

よって、餃子の王将(ロゴ)と先願各登録商標(王将)とがその称呼を同一にするとまではいえない

 

(観念:同一)

餃子の王将(ロゴ)は、「王将」の文字部分、特に漢字で記載されていることやその書体からして、将棋の王将の観念が生じる。先願各登録商標(王将)からも、同じく将棋の王将の観念が生じる。

 

よって、両商標の観念は同一である

 

<取引の実情をふまえた検討>

(a)餃子の王将(ロゴ)は、昭和47年頃から看板等に使用されてきた。そして餃子の王将は、全国の飲食業売上高ランキングで43位(昭和55年)、25位(平成6年度)等の上位にランクされている。

(b)先願登録商標1、2の使用実態をみると、「大阪王将」と結びついて使用されており、大阪王将が昭和44年から餃子を中心とした中華専門店を営んでいること等を目的とし、積極的に大阪王将という中華料理店での実績・評価と結びつけるべく使用している。(ちなみに、大阪王将は先願登録商標3を使用していない。) 

(c)昭和の裁判での和解成立以来、それぞれ「餃子の王将」「大阪王将」と表示することとされている。

 

以上をふまえると、餃子の王将(ロゴ)と先願各登録商標(王将)とは、同一または類似の商品に使用された場合に、商品の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるとは認められず、互いに類似する商標であるということはできない。

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「餃子の王将」「大阪王将」と棲み分けている事実などをふまえると、必ずしも混同は生じないのではないか?といったことが考慮された判決である。昭和時代における和解事実もが判決に影響を及ぼしている点が味わい深い。

事件B(平成19年(行ケ)第10091号)

・争点:商標登録第4559956号は、先願登録商標(商標登録第1673048号等)の存在によって、商標法第4条1項11号による無効理由(46条1項1号)を有するかどうか。

・判決:無効とする審決を維持する(= 商標登録第4559956号は無効)。

 

事件Bにおいて、商標登録第4559956号は「無効」とする判決であった。「元祖餃子の王将」の使用事実がないことや両商標の「外観」「称呼」「観念」に基づいて類否判断をすると、両商標は類似しており、後発の商標登録第4559956号は無効とすべきということである。

 

事件Aと事件Bのまとめ

 

おまけ:両社共、イートインに関する商標登録を有する(重複登録)

 

最後は、サービスマーク(役務商標)に関する話題である。

 

商標登録を行うためには、商標を使用する事業分野を特定することが必須となる。出願の際に「区分(1~45類)」や「商品役務」を指定するのだ。実のところ、上記平成の裁判は第30類の商品「ぎょうざ」について争われた事件である。第42類(現:第43類)の「飲食物の提供」は店舗で飲食するイートインを意味し、これは上記平成の裁判とは全く別の話となる。

 

ここで、もしも「商標が同一類似 and 指定商品役務が同一類似」となる2つの商標登録出願があった場合、後の出願は登録には至らない。同一類似の商標を同一類似の分野で使用してビジネスを行うと、混同が生じるためである。よって、上記平成の訴訟のような特殊な事情が考慮されない限り、同じ「飲食物の提供」という指定役務(サービス)について「餃子の王将」と「大阪王将」の商標登録は共存し得ないようにも思える。

 

しかし、飲食店等の「役務(サービス)」について商標登録できるようになったのは、両社が既に20年以上もビジネスを進めてきた「平成4年」である。早い勝ちで一方にだけ商標登録を許すのは、他方にとって酷であろう。

 

そこで、サービスマーク制度導入の過渡期においてはこういった共存を認め、重複登録が許されている。J-PlatPat 上においても「重複番号」として他方の商標登録の存在が紐付けられているのだ。

J-PlatPat 画面

 

商標の世界は実に奥が深い・・・しかし、だからこそ面白いのである。

 

雑感 ~人生に必要なことは、みんな王将の裁判が教えてくれた~

社会は争いが絶えない。しかし、多少の衝突をしながらも調和を実現していくことが大事である。

 

両王将間で争いがあったものの、各裁判を通じて現在は棲み分けがなされており、どちらも美味しい餃子を提供している。商標法等の法規によって取引や競争の秩序が維持され、私は今夜も冷凍餃子の恩恵を受けている。その事実が大事である。

 

誰しも自身や自社にとって譲れない部分があり、ときに衝突が生じる。互いに影響を及ぼしあう「諸法無我」の世では必然的なことである。

 

衝突したときは、独善的な自己主張を繰り返すのではなく、相手を尊重しつつ高次の着地点を見つけていく姿勢が大事であろう。多少焦げ付かせつつキレイな羽根付き餃子の調理を目指すようなものだ。

 

両王将の関係が ”焦げ付き” 過ぎないことを祈りつつ、”王将” たる懐の深さにこれからも期待したい。

 

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