INFORMATION情報発信
2020.12.03
スニーカーと商標とコマリョー
スニーカーの側面に表示するマークはブランドか?デザインか?
難しい問題である。上記の例のように、商品のデザインであるという主旨の理由で識別力なしと判断される例も多い。しかし、最近の事例を見ると、識別力を発揮するもの(これを「ブランド」と呼ぼう)という見方も出てきた。以下、靴に関する複数の事例を見ながら具体的に話す。なお、「コマリョーって何?」という疑問は一旦忘れて読み進めてもらいたい。
動画はこちら↓
1.背景事例
ヒュンメル事件 大阪地判平成20年1月24日 平成18(ワ)11437
不正競争防止法2条1項1号の該当性の事案である。原告商品の「2本のくの字」の周知性が認められず、類否を判断するまでもなく同号には該当しないとされた。つまり、差止請求等は棄却され、被告商品の販売は不問となった。
うーん、似てるよな…周知じゃないので仕方ないが。。てか、サッカー経験者にとってはヒュンメルのブランドとして周知な気もするが、うーん。。
ちなみに、この事件の被告は株式会社コマリョー(以下、「コマリョー」と略す)という会社で、アンケート調査を上手く利用し請求棄却に持ち込んだ。商標で有名なある弁理士(A木H通先生)によると、コマリョーは靴分野で訴えられる側で割と頻繁に出てくる。とか言ってたような…(筆者のうろ覚え)。なるほど、コマリョーは、なかなかのヤリ手と見た。調べるとコマリョーは1955年創業、年商56.6億円(2015年8月期)と結構な歴史と規模のフットウェア専門商社のようだ。にもかかわらず、なかなかリスキーな商品を賢く売り切るコマリョー。恐るべしコマリョー…(コマリョーって言いたいだけ)。
この事件の詳細はゆるカワ商標ラジオ♡商標ラジオ#7アンケートをご覧いただきたい。
動画はこちら↓
ところで、原告の輸入元ヒュンメル社は「2本のくの字」の平面商標(立体商標ではない商標をこう呼ぼう)の商標権を所有していた↓
不競法とは異なり、商標権や専用使用権の侵害には周知性の要件が無い。ところが、原告は、商標権等の侵害は主張しなかった(原告はヒュンメル社の独占的代理店だったので、その気になれば商標権の一時的な譲渡か専用使用権の設定登録を受けられたと思われるが…)。スニーカーの側面のマークがデザインであると考え、この平面商標によって権利行使は困難と判断したのかもしれない。
平面商標は登録し易い一方で、スニーカーの側面に表示された場合に識別力を発揮するのか(商標権の効力が及ぶのか)に不安が残る。
2.審査の傾向
一方、もし、原告が立体商標(靴の側面に「2本のくの字」がある)を登録していれば、容易に権利行使できただろう。しかし、立体商標の登録は簡単じゃない。以下の立体商標出願の審査例をご覧いただきたい。
登録第4522864号 登録日:平成13(2001)年 11月 16日
拒絶理由3条1項3号→意見書→登録(3条2項適用)
これはご存知アディダス。この立体商標は、あくまでも周知性があるので登録された。つまり、本来的には識別力がない(ブランドじゃない)という判断だ。
商願2009-50941 出願日:平成21(2009)年 7月 6日
拒絶理由3条1項3号→意見書→拒絶査定
これはPONYというブランド。筆者は知っているが、知る人ぞ知るという感じかな?識別力なしとされた。
商願2015-30094 出願日:平成27(2015)年 4月 1日
拒絶理由3条1項3号→反論なし→拒絶査定
ヒュンメル事件から約7年後、新しいタイプの商標制度導入時に、同事件の原告の輸入元ヒュンメル社は↑の位置商標を出願した。この商標も識別力なしを理由に拒絶された。(反論なし←いや頑張れよ…)
上の各審査例からスニーカーの側面のマークの商標登録のためには周知性が必要だという事が見えてくる(なお、周知性の立証のためには、かなりの使用実績を裏付ける証拠を大量に提出する必要がある)。
3.画期的事例の登場
ところが状況は一変する。最近になって画期的な審決がなされた。以下をご覧いただきたい。
靴の側面に各社多様なブランドのロゴマークを付す表示態様が多く採用されている実情を考慮し、識別力ありと判断された。つまり、周知性なしで識別力が肯定された!
この事例を見つけて筆者がニヤニヤしていたところ、以下の侵害訴訟の事例を知った。
Xスニーカー事件 平成29(ワ)11462 東京地裁令和2年7月29日
東京地裁は以下のように述べ、識別力ありと判断し(周知性の認定なし)、被告商品の差止を命じた。
「被告は…被告各標章は単なるデザインとして使用されているにすぎない等と主張するが,他の登録商標が付されていることによって,当然に被告各標章が商品識別機能を有しないということはできない…」
驚くべきは、原告の登録商標は立体商標でも位置商標でもなく、平面商標だったことだ↓
拒絶理由なし
既に述べたとおり、平面商標だと登録は容易だが、権利行使に不安がある。一方、立体商標・位置商標は登録のハードルが高い(不服2018-650013も審判まで争った)。
しかし、この侵害訴訟の原告は、拒絶理由も受けず簡単に平面商標を登録し、権利行使をやってのけた!この原告スゲーな…“省エネ権利行使作戦”大成功である(知らんけど)。
と勝手に色々思いを巡らせ原告の名前を見ると、ん?見覚えが…
ヒュンメル事件の被告のコマリョーがここでは原告として出てきたのだ。いや待て待て、同一名称の別会社という事も有り得る。そこで、法人検索をしてみた↓
ちゃんと「コマリョー」と「コマリヨー」の両方で検索して、と…
1社…ということは…
すごいぞ、コマリョー。何なんだこの会社は。スニーカーに関する2つの知財訴訟において、見事に防衛し、軽やかに勝利した。
4.まとめと感想
スニーカーの側面に表示するマークは、デザインであるとして識別力を否定されてきた。しかし、最近の事例では、識別力を発揮するブランドという見方も出てきた。
取引の実情の変化によってデザインがブランド化しつつあると評価できる。複数の周知なスニーカーブランドと追随するスニーカーメーカーが取引の実情自体を変化させたと考えることもでき、おもしろい。そして、コマリョーはすごい!スニーカーと商標を語る上で不可欠なのがコマリョーの存在だ。今後も、コマリョーのますますの活躍に期待したい。
※全体の説明を簡潔にするために、事例における商標や指定商品等を大幅に省略しています。
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