INFORMATION情報発信
2018.12.31
Vo.14 (小田原蒲鉾)
小田原支部平成28年(ワ)第154号横浜地方裁判所
第29類
小田原産のかまぼこ
1.結論
先使用権が認められ非侵害(商標法第32条の2第1項)
2.概要
被告の商品が小田原市産でなかった事情に基づいて、地域団体商標権に対する先使用権の要件の「不正競争の目的」について争われた。裁判所は、不正競争の目的の判断の前提として、先使用者の商品が、当該地域(本件だと小田原市)と同様の自然、歴史、文化、社会等のつながりを有しているかを考慮すべきであり、これらのつながりは必ずしも行政区分に限定されるものではないという規範を述べた。
そして、小田原市の相模湾沿岸の地域以外のより広い地域がかまぼこの製造地として関連性を有するに至っているため、ここを中心として自然、歴史、文化、社会等のつながりを有している小田原市の周辺の地域も「小田原」に含まれるとした。
これを踏まえて、以下の事実に基づき、南足柄市は蒲鉾とつながりを有する小田原市の周辺の地域に含まれているとした。
・被告の商品の工場地の南足柄市は小田原市と極めて近接していること
・小田原市周辺の地方自治体には「小田原」の名称を付した業者名や店舗名が複数存在していること
・南足柄市は江戸時代に小田原藩の支配領域にあったこと
その上で、被告が「小田原産のかまぼこ」の製法に関する知見や技術を取得している事情等を考慮し、被告に、他人の信用を利用して不当な利益を得ようとする不正競争の目的はないとした。
3.コメント
地域団体商標は、通常の商標よりも周知性の地理的範囲及び程度が低くても登録になる一方で、本来的にその地域の業者に自由に使用させるべき商標であるとして先使用権の要件に周知性がない。ただし、不正競争の目的がある場合は、先使用権が認められない。
本件は、「小田原」を行政区分上の「小田原市」に限定すべきかどうかが争われ、それが不正競争の目的の判断に影響することを示した面白い事案である。一見すると、製造地と不正競争の目的とは無関係に思えるが、この裁判例によって関係し得ることを考えさせられた。裁判所は、地域団体商標の制度の導入趣旨に触れ、「その地域ブランドの信用に便乗しようとする他者が地域外の商品に同じブランド名を使用することによって、地域ブランドの信用が毀損されることを防ぐ必要があること」を挙げている。この趣旨に従えば、小田原に全くゆかりのない土地で全く異なる製法で製造された商品が「小田原蒲鉾」という名であれば、たとえ出願前から使用されていたとしても不正競争の目的があるとして先使用権が認められないとされてもおかしくないであろう。
市町村合併等によって地名が変わることはあるが、住民には、変更前の土地名で相変わらず馴染まれていることがある。裁判所は、単に行政区分に限定せず、「小田原」という地名の歴史的背景に基づいて地名について検討しており、実質的で妥当だと思う。蒲鉾と土地の関係性について丁寧に検討されている点も興味深い。
ちなみに、本件は知財高裁に控訴されたが和解されたようである。和解内容は不明。
この事件は、最近知り合った小田原市周辺の会社に勤務の弁理士さんに教えてもらい紹介しました。ご紹介ありがとうございます。そして、今年最後のブログとなりました。来年もよろしくお願いします。
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