INFORMATION情報発信

2021.12.02

業界”外”人に伝えるということ

弁理士の岡村です。この記事は知財系 Advent Calendar 2021の参加記事です。昨年の「スニーカーと商標とコマリョー」に引き続き2回目の参加です。

 

筆者は商標と意匠に関する業務を行なう弁理士であるが、知財の知識が0の業界の人間(以下、「業界外人」と呼ぶ。)への伝え方は難しい。分かってもらえるように伝えるのは本当に本当に本当に難しい。筆者は、個人事業主・中小企業の問い合わせ(1000件は越える)に答えてきた経験があり、時には納得してもらえず怒られてきた経験から、業界外人にどう伝えるかを模索し続けてきている。この記事では、業界“内”の人間(以下、「知財人」と呼ぶ。)向けに、その一部を紹介したい。

 

実務で改良を重ねた伝え方

まずは、以下の例文を見ていただきたい。

 

「商標登録するには、登録する商標を何の商品やサービスに使用するかを特定する必要があります。」

 

(1)「登録する商標」という表現

筆者は、以前、当たり前のように業界外人に使っていたが、よくよく考えてみると伝わってないかもしれないと最近思った。

 

「登録する商標」は、商標=文字・図形・記号…という定義が前提の表現だが、業界外人は知らない。そこで、「御社が登録したいネーミング」等とするのが分かりやすい。ここで重要なのは、顧客の業務内容や登録する商標を既に知っている場合、「ネーミング」の部分を臨機応変に「社名」、「ロゴ」、「サービス名」、「イラスト」のように差し替えることである。また、例えば登録する商標が「ブランデザイン」なら、「ネーミング、御社の場合ブランデザインというネーミング」のように差し替えるのもありだろう。

 

(2)何の商品やサービスに使用するか

商品・役務の概念は業界外人にとって非常に分かりにくい。業界外人の中には「SONY」は「SONY」という名前だけを登録していると思ってる人も多い。そんな業界外人にとって、以下の例のように無数の商品・役務が細かーく願書に記載されているなんて想像もつかないだろう。

 

SONYの登録商標の1例

https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1800/TR/JP-2004-111624/8BF9F23E85DA6643CF2D48812A0C4006905ACAA4E42EEF492AE8AAE43EA57E24/40/ja

 

しかし、これを業界外人に理解していただき、詳細な情報を聞き出せなければ、適切な権利取得はできない。

 

そこで、以下のように具体例を交えて説明するのが現時点での筆者のベストである(口頭で説明する前提)。

 

「例えば、同じ『スーパーカップ』でも、『麺類』はエースコックさんが、『アイスクリーム』は明治さんが商標登録しています。このように、ネーミングやロゴだけを商標登録することはできなくて、商品やサービスと結び付ける必要があります。商品・サービスのジャンルが違えば別の会社が同じ名前であってても登録できるし使えるんです。ですので、商品・サービスは商標登録の肝なんです。そこで、御社が○○を使ってどのような商品やサービスを行うかについて詳しく伺う必要があります。」

 

情報発信での気付き

他にも色々な場面で、知財人にとっては伝わってるつもりが業界外人には伝わっていない(納得してもらえない)という現象が起きている。これに日々の業務だけで気付くことはいかに想像力・創造力を駆使しても限界がある。筆者はセミナーやYouTubeで業界外人の方から質疑応答することにより様々な気付きを得た。その一部を以下に紹介する。

 

(ア)商工会議所でのセミナー

筆者がプレゼンターとして商標制度に関するセミナーをした。受講者は業界外人であった。その中で以下の事例を使って説明をした。

 

 

 

まず、一般論として、外観、称呼、観念の観点で類否を判断する必要があり、称呼が同一であれば類似とされる可能性が高い旨の説明をした。その上で、この事例では、後願商標から「ビームス」の称呼が生じると判断された結果、先行商標と類似する旨を説明した(一般論も当てはめも実際はもっと噛み砕いた表現)。

 

セミナー後に受けた質問

「全然違うように見えるのにダメなんですか?」

 

後願商標から何の称呼が生じるとか以前の素朴な疑問であった。「称呼が同一であれば類似の可能性が高い」だけでは納得感がなかったのである。筆者としては、細かいことを言っても伝わらないし却って混乱を招くと思い、端的に結論だけ伝えた。同じように思う知財人も多いのではないだろうか?しかし、その質問者は納得していなかった。この時筆者は、裁判例で説明される理由だけを説明したところで、この質問者には伝わらないと思った。そこで、そもそも商標が類似だと出所混同が起きるから問題であることや、離隔観察についても噛み砕いた表現で話した。すると、納得しているようだった。

 

この経験から、さらにブラッシュアップして、「なぜ称呼が同一なら類似になる可能性があるのか」について、具体例を交えて詳細に説明できるようにした。説明の仕方にご興味のある方は知財実務オンラインのこの動画(10:48~16:16)をご覧いただきたい。

 

(イ)YouTube

筆者が企画・配信しているYouTubeでは、業界外人(筆者の友人)とトーク形式でお送りする動画がほとんどである。#12の動画(4:53~6:30)でこんな気付きがあった。

 

アップルの「iPhone」の出願がインターホンの登録商標「アイホン」によって拒絶された話をした際に以下の質問があった。

 

「(スマホとインターホンで)商品のジャンル違うのにダメ(類似)?」

 

商品が非類似なら「アイホン」は「iPhone」の引例にならない。では、類似群の説明をして、スマホとインターホンの商品類否について話せばいいのだろうか?

 

そうではない。この質問に回答するには、まず質問者の誤解を解かなければならない。そもそも比較するのは現実の商品同士ではなく、指定商品同士である。また、「iPhone」が使えるかどうかの話もする以上、商標権者の指定商品と被疑侵害者の現実の商品とを比較しなければならない点も伝えなければならない。この誤解を解きつつ回答しないと、質問者の疑問を解決したことにならない。iPhoneの動画では、上記質問に対して筆者は最低限の回答をしたものの、上手く説明できなかった。

 

しかし、予想外の咄嗟の質問に対して完璧に答えることは難しい。重要なのは、質問者に対しては後でフォローし(動画ならテロップを入れ)、その後別の人から同じような質問を受けた時に上手く説明できるようにしておくことである。仮に同じ質問を受けることが無いとしても、質問により得た気付きに基づいて伝達力を上げることができる。つまり、質問の視点を念頭に置くことで、日常の業務やプレゼン等の説明の場面で先回りして適切に説明することができるようになる。例えば、ZOOM商標権侵害訴訟に関するYouTube#51の動画(6:30~8:26)では、iPhoneの動画での質問を踏まえて、以下の点を強調するように説明している。

 

「原告の使っている商品と被告の商品を比較するのではなくて、あくまでも原告の登録商標の指定商品と被告の商品を比較する」

 

(ウ)ブログ記事

最近の新しい試みとしては、業界外人にブログ記事を書いてもらったり、逆に知財人である筆者が書いた記事に対して業界外人にチェックをお願いしている。その方は、期待以上に、ズバズバ駄目出しをしてくる。

 

書いてもらった記事

https://bran-design.jp/topics/blog/1398/

 

チェックを受けた記事

https://bran-design.jp/topics/column/1422/

 

まだまだ、気付きは沢山あるし、伝え方はまだまだ改善していけると改めて感じた。

 

 

まとめ

実務や、セミナー、業界外人と情報発信を経験してきて、思った以上に知財人の話が業界外人に伝わっていない事に気付いた。筆者が業界外人から、実務で怒られた経験及びセミナーやYouTubeで疑問を投げかけられた経験は、“業界外人”に伝えることに本当に役立っている。

 

業界外人に伝えることは本当に困難であるが、想像力・創造力を働かせる必要があり面白い。ただ、ここで留まらず、業界外人からのフィードバックを受けるともっと面白い。想像だにしなかった方向から疑問が飛んでくるからだ。こればかりは、実践あるのみである。そして、この疑問に答える準備を徹底することで、キッチリ業界外人に伝えることができるようになると思う。

 

 

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