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2021.09.10
競走馬と商標とパブリシティ権
1.前提
競走馬名が同一人により複数商標出願された(以下、一部例)。
これらの一部は拒絶理由通知書を受けている。筆者の父が過去に恩恵を受けたことのある「ライスシャワー」の拒絶理由を見てみよう。根拠条文は以下の4つ(いずれも商標法)。
■第4条第1項第7号(公序良俗違反)
■第4条第1項第10号(他人の周知商標)
■第4条第1項第15号(商品又は役務の出所の混同)
■第4条第1項第19号(他人の周知商標と同一又は類似で不正の目的をもって使用をする商標)
4つとも「ライスシャワー」が競走馬名として国民の間に広く知られていることが根拠の1つとなっている。これを受けて、要望があり本日(2021年9月10日)ディスカッションすることになった。
2.議論のポイント
ポイント(論点)として以下の3つが考えられる。
(1)競走馬の名称は商標(その使用は出所表示としての使用)か?
(2)商標の場合、使用者は誰か?
(3)商標でない場合、何らかの権利があるか?
(1)及び(2)については場面によって商品・役務の捉え方が異なる。可能性がありそうなものを整理すると以下のとおり。
第31類「生きている動物」類似群33D02
第41類「競馬の企画・運営又は開催」類似群41G01
第9類 「ゲームソフトウェア」類似群09G53 11C01 24A01
また、(1)で参考にできそうな裁判例として以下がある。
(3)については、知的財産権以外の法律が絡んできそうである。関連しそうな裁判例を整理すると以下のとおり。
パブリシティ権(根拠は人格権か顧客吸引力か?)
ダービースタリオン事件 否定 東京高判平成14年9月12日 上告不受理
ギャロップレーサー原審 肯定 名古屋高判平成13年3月8日
ギャロップレーサー最高 否定 最高裁平成16年2月13日
なお、ギャロップレーサー原審でも差止請求は認めておらず、不法行為として損害賠償が認められるに留まった。ピンク・レディー事件(最高裁平成24年2月2日)では、パブリシティ権を人格権に由来する権利である旨が示され法的性質を確定させたとされている。その他、天理教事件(最高裁平成18年1月20日)では、人格権の一内容を構成するとして氏名権というものを認めつつも、結論として差止請求を否定している。
商標法や不正競争防止法等の知的財産権法で保護されないものを保護することについて(特に差止請求)、裁判所は非常に慎重であると見受けられる。
3.議論をしてみて
明確な結論は出なかった。しかし色々気付きを得られた。(1)競走馬の名称は商標かという議論で、商標(識別標識)でないという意見が多数だった。競走馬以外にプロレスの興行の開催におけるプロレスラー名も話題に上がったが、これと競走馬は同じように感じる。一方、F1に出場するHONDAとか、プロ野球の阪神タイガースとかは商標になるのではないかという意見があり、確かにそんな気がする。そこから考えると、本質的には興行に出場する物の名称だから商標でないというよりは、個体と一対一の関係にあるから商標じゃないといえそうだ。あーこの説明も難しく正しく言語化できていない気がする。。また、後日考えてリライトします。
メモ
ギャロップレーサー事件で原審が確定した事実のうち重要な箇所
「本件各ゲームソフトのうち,家庭用のギャロップレーサーのパッケージの裏面には「実在の競走馬が1000頭以上も登場」との記載があり,そのパンフレットには「騎乗可能な馬は1000頭以上。この中にはトウカイテイオー・・・といった名馬たちはもちろん」との記載があるが,上記のトウカイテイオー以外には,本件各競走馬の名称が,本件各ゲームソフトの宣伝広告等に使用された形跡はない。」
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