INFORMATION情報発信

2021.09.13

飲食店のメニュー名と商標(皇朝事件:Vol. 36)

平成26年(ワ)第11616号(東京地方裁判所判決)

判決文はこちら

 

 

1.結論

被告メニュー名の使用は商標権侵害と判断された。しかし、訴訟の途中で被告が使用を止めていたため差止請求は棄却。損害賠償は、被告店舗における売上げに全く寄与していないとして認められなかった。

 

 

2.理由

飲食店内で消費される飲食のメニュー名は商標でないという考え方がある。本件の被告もこの点を争っている。つまり、以下の理由に基づき、メニュー名としての使用は商標としての使用でないと主張している。

 

…店内飲食のために提供され,そこで消費される飲食物は,提供者自身の支配する場屋内で提供されるものであるため,その役務の提供者が被告であることは明らかであり,当該飲食物について,さらに他人による飲食物の提供との識別を必要とする場は存在しない。

 

しかし、以下のとおり、本件で被告のメニュー名の使用は商標権侵害と判断された(類似という判断部分は割愛)。

 

このメニュー表示は,中華料理の提供を行う被告店舗において役務の提供を受ける者の利用に供する物に標章を付する行為であり,法2条3項3号にいう商標の使用に該当するものと認められる。そうすると,被告店舗における「皇朝小籠包」とのメニュー表示は,原告商標権1の侵害に当たる。

 

一方、裁判所は損害賠償を認めなかった。理由は以下のとおり(下線は筆者が追加)。

 

…「皇朝」の部分そのものには顧客吸引力が認められず,「皇朝小籠包」との記載が被告店舗内で使用されている限り,当該標章の使用が被告店舗における売上げに全く寄与していないことは明らかであり,その使用によって原告に損害が発生しているものとは認められない。

 

この判断の前提として、裁判所は以下の事実を考慮し原告との出所の誤認が認められない判断を示している。

 

・「皇朝」は普通名詞であり識別力が極めて弱い

・「皇朝小籠包」が被告店舗のメニューである小籠包を意味することは明らか

・需要者は「皇朝小籠包」をあくまで被告店舗である「乐天皇朝」の「小籠包」の意味で使用されていると認識するにすぎない

・被告のウェブサイトには「皇朝小籠包」の表示や原告との関連を伺わせる表示がない

・原告との関連を誤認したレストランガイド等のウェブサイトの記載もない

・原告は「横浜中華街」または「中国料理世界チャンピオン」を強調し、これと共に「皇朝」を使用する場合が多い

 

3.判決から学ぶこと

裁判所は、“メニュー名だから損害なし”という判断をしていない。「皇朝」の識別力の低さや「皇朝小籠包」が被告店舗内で使用されていること、原告・被告の使用状況から出所の混同が生じないことを前提に損害の不発生を丁寧に判断している。

 

損害不発生の理由の慎重さから、メニュー名の使用であっても使い方によっては出所の混同が生じ得ると捉えられる。例えば、ミスタードーナツと何の関係もない飲食店が「ポン・デ・リングあります」という表示を看板やHPに掲げて店内でドーナツを提供すれば、損害発生が認められそうだ。

 

また、出所の混同が生じていなくても、(条文どおりに判断され)差止請求が認められるという教訓も伺える。商標の使用調査時や訴訟前交渉時において、メニュー名だから商標でなく、自由に使えるという判断をするのは危険であるとわかる。

CONTACTお問い合わせ

<お気軽にお問い合わせください>

03-6773-9040

<お問合せ対応時間>10:00~17:00 定休日/土日祝日
※事前にご連絡いただければ、上記時間外も対応可能です。