INFORMATION情報発信

2022.03.03

さかなクン立体商標事件

皆さん、こんにちは!brandesignのライター・タイガー小林です。

今回も商標に関する耳寄り情報を、楽しく分かりやすくお届け致します!

 

立体商標については、たけのこの里氷結の缶など、当ホームページでも何度か紹介しています。

 

本来、商品の『形状』は商標登録できない(≒誰でも使える)ものとされていますが、『使用をされた結果需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができるもの』であれば、商標登録が認められます(商標法32)。つまり、商品の形状の域を超える場合を除いては、多くの人がその形を見ただけで、『あの商品だ!』と認識するくらい有名になっている場合に限り登録が可能というわけです。ヤクルトの容器、コカコーラの瓶、きのこの山なども納得ですね。

 

『それなら、きっとアレも登録されているんじゃないか?』と今、皆さんの脳裏をかすめたもの…。それは、ズバリ『さかなクンの帽子』ではありませんか?!あの、眩しい青と黄色のコントラスト、まるで空中を泳ぐかのように左右に激しく突き出た背びれ…、あのフォルムを目にした瞬間、我々は『さかなクンでしかない!』と心の中で叫ばずにはいられません。

 

偶然にも?!こちら▼の動画で解説しています。

https://youtu.be/eznMONhdsk8

 

さかなクンの帽子を巡っては、他のふぐの被りもの(ふぐキャップ)との間で闘いがあり、平成21年に特許庁に対して判定が請求されています(判定2009-600021)。

 

さかなクンの帽子の権利者である株式会社アナン・インターナショナルが、株式会社ジグの『ふぐキャップ』に対して、商標権侵害である旨の警告を通知したため、株式会社ジグ側が特許庁の判断を仰ぐべく判定を請求した、という経緯です。

 

『判定』とは、2つの商標が類似しているか否かについて、特許庁が意見を示すといった制度です。裁判とは違って法的拘束力はありませんし、裁判所と見解が異なる場合もありますが、今回のように自社の商品が他者の商標権を侵害するものであるか否かを知りたい場合には、安価な費用かつ簡単な手続きでスピーディーに公的見解を得ることができます。

 

こちら▼が立体商標として登録されているさかなクン帽

対するふぐキャップはこちら▼

※両者ともに図面の一部は省略。

 

特許庁の判定結果は以下の通りです。

 

ふぐキャップは『仮装用かぶりもの』であり、帽子ではないという請求人の主張は退け、さかなクン帽と指定商品が同一又は類似であることを認めました。

 

その上で、『「ふぐ」というモチーフを共通にするものであるとしても、その外観的特徴が全く異なり、明らかに印象を異にする別異のものといわなければならない。』としています。特許庁の描写によると、外観特徴の違いは下記の通り。

 

《全体のかたち》

ふぐキャップ:頭全体をすっぽり覆うことのできるヘルメット様

さかなクン帽:単なるぬいぐるみ様

 

 

《顔》

ふぐキャップ:正面の青色部分内に目及び口を集中的に配置し、目については黒目の回りに白目部分をも有し、口についてはピンク色のリング形状

 

さかなクン帽:黄色の部分内に目と口が配置されているが、その口にしても同色の黄色であって、その中央真横には切り込みが入った分厚い唇を有している

 

※需要者の最も印象に残ると思われる顔の表情も、全く異なる

 

《色》

ふぐキャップ:略五角形状の青色部分とそれ以外の白色部分に分けられているにすぎない。

 

さかなクン帽:口を中心としてX字状の放射ラインを境として、上側が青色、左右側が黄色、下側が白色に色分けされている。

 

《ヒレ》

ふぐキャップ:胸びれと尾びれしか備えていない。

さかなクン帽:胸びれと尾びれ以外にも、背びれ、尻びれを備えている。

 

《斑点》

ふぐキャップ:顔の両脇に四つの斑点しか備えていない。

さかなクン帽:全身に多数の斑点を備えているものである。

 

 

相違点をこれだけ理路整然と並べられると、似ていないと認めざるを得ませんね。

私たちが『や、似てないでしょ!』という一言で片づけてしまうところ、さすがの文章力です。

 

また、ふぐキャップは『商標法第26条第1項第2号に該当するものである』、としています。このふぐキャップは、「かぶりもの」の形状の範囲を出ないものであり、他と識別できるほどの特徴を持たないため、商標権の及ばない範囲のものである、といった見解です。「ふぐキャップ」は、冒頭で触れた「商品の形状の域」を超えないし「有名」でもないため、誰でも使える(つまり商標権侵害でない)というような内容です。

 

以上のことから、ふぐキャップはさかなクン帽の商標権の効力の範囲に属しないものである、との判定結果が下されました。

 

確かに、さかなクン帽は特別なこだわりをもって『ハコフグ』をデザインしたものですし、帽子の着用が禁止されている国会でも被ることを許された唯一無二の帽子ですから、人々が何かと混同することは考えにくいですね。

 

身の潔白を証明することができたふぐキャップは、現在も販売されています(詳しくはコチラ)。

 

 

今回のように、見た目は明らかに似ていない商品であっても、モチーフが共通している場合、ある日突然他者から、商標権侵害である旨の警告が通達されることがあるかもしれません。そんな通知に『ギョギョギョ』とした時には、すぐさまプロの弁理士に相談しましょう!

 

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