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2024.04.18
知財実務オンライン事件を代理人(商標弁理士)が解説
「知財実務オンライン」という知的財産業界で最も周知であろうYouTubeチャンネルがあります。このチャンネル名を運営者たちが商標登録出願したところ、特許庁は登録を認めず拒絶しました。理由は「知財実務オンライン」が内容表示と認識されるため識別力がないというものでした。このような特許庁の“拒絶”との暫定的判断に対して、筆者(岡村太一)を含む弁理士により反論を繰り返してきました。しかし、反論は認められず知財高裁で争うことになりました。裁判では弁護士たちと共闘し、先日(令和6年4月10日)判決が下されました。本記事では、その裁判で裁判所が下した認定判断のポイントを解説します。
詳細については、YouTubeチャンネルらしくYouTube配信しています。特に弁護士さんの主張・立証の考え方については弁理士にとって新鮮で勉強になる箇所も多いと思います。是非ご視聴ください。
2024年4月17日
1.結論
訴えを棄却する。商標登録は認められない(商標法3条1項3号に該当する。同3条2項には該当しない)。
2.判決理由の概要
(1)商標法3条1項3号
裁判所は概ね以下の理由から識別力がないとして3条1項3号に該当する旨の判断を下しました。
・本願商標「知財実務オンライン」からは「知的財産に関する実務の情報をオンラインで提供するもの」と認識される
・第三者による使用事実がないことによって上記認定は左右されない(結論に影響しない)
・「○○オンライン」(甲29等)が識別標識として使用されているとは認められない
・定期刊行物は主として特定の新聞社・出版社ごとに異なり、題号が品質・内容を示すものであっても識別機能を果たし得るという取引の実情が認められる
・映像の提供等について、定期刊行物と同様の取引の実情があると認められない
▼甲29の一部抜粋
(2)商標法3条2項
裁判所は概ね以下の理由から識別力の獲得を認めず3条2項に該当しない旨の判断を下しました。
・長期間の使用事実は重要な要素であるところ、「知財実務オンライン」の使用期間3年4ヶ月はさほど長期間といえない
・需要者は原告主張の者に限られず、チャンネル登録者数(約4100~4200人)は需要者のごく一部をカバーするにすぎない
・実際の視聴数は明らかでない
・業界の著名人が出演している事実は大多数の需要者に出所を認識させる理由とならない
3.実務への影響等
定期刊行物の特殊な点を知財高裁が明確に認めてくれた点は喜ばしく思います。審査実務を主張しても一蹴される裁判例も少なくないためです。今回は、例えば、「パテント」、「知財管理」、「知的財産権判決速報」を含む多数の審査・審決での登録例を示すと共に、大審院判決及び書籍(網野誠「商標(第6版)」)を提示したことが功を奏したのでしょうか。
一方、映像の提供等については、「定期刊行物」と同様の取引の実情を示す証拠がないとして認められませんでした。以下のとおり、裁判所は一定の理解を示しつつも、最終的には「証拠ナシ、直ちに同視不可」という認定判断を下しました。
なお、近年の電子技術や通信技術の発達に伴い、情報コンテンツ及びその伝達手段が拡大・多様化しており、新聞社・出版社による「定期刊行物」、テレビ局・ラジオ局による「放送番組」といった従来からの商品役務とそれ以外のオンラインにより伝達される情報コンテンツとの境界も変容しつつあることは事実であるが、そうであるからといって、従来からの取引において長年にわたり形成された「定期刊行物」に係る取引の実情が、オンラインによる映像等の提供について直ちに認められることにはならない。
今回登録は認められなかったものの、定期刊行物と映像の提供との取引実情やYouTube動画における3条2項等の判示があり、商標審判決ヲタクの筆者にとっては新規性のある判決だと認識しています。今後、実務家や学者の先生方の議論を生みそうで興味深いです。特に、「知財実務オンライン」第100回のゲストの田村善之先生による批評を心待ちにしております。議論の活発化により、映像の提供について定期刊行物と同様の扱いとなる判断が下される日が来るかもしれませんし、是非とも再出願の「知財実務オンライン」でそのような判決を勝ち取りたいと個人的には思っています。
判決の本筋からはズレるものの、今後の実務の参考になる部分にも触れておきます。3条2項の認定の中で「知財実務オンライン」をどの役務について使用しているかについて、特許庁審判官と裁判官とで認定が異なっております。
特許庁が使用を認めた役務
第41類
知的財産に関する映像の提供
裁判所が使用を認めた役務(⑦、⑨~⑫)
第41類
⑦知的財産に関するセミナーの企画・運営又は開催(動画配信プラットフォームを通じて各回異なる内容のものが定期的又は逐次的に提供されるものに限る。)
⑨知的財産権に関する知識の教授(動画配信プラットフォームを通じて各回異なる内容のものが定期的又は逐次的に提供されるものに限る。)
⑩知的財産に関するオンラインによる音楽・音声・映像・画像・文字情報の提供(動画配信プラットフォームにおいて各回異なる内容のものが定期的又は逐次的に提供されるものに限る。)
⑪知的財産に関するオンラインによる音楽・音声・映像・画像・文字情報の提供(動画配信プラットフォームにおいてシリーズものとして定期的又は逐次的に提供されるものに限る。)
第45類
⑫知的財産権に関する情報の提供(動画配信プラットフォームにおいて各回異なる内容ものが定期的又は逐次的に提供されるものに限る。
この裁判所の認定は商標登録出願時の指定商品役務の選定に影響するでしょう。映像の提供については、映像内容である専門知識に関連する役務の情報提供も指定しておいた方が安全といえます。同様に、オンライン記事についても、「電子出版物の提供」に加え、その記事に関連する役務の情報提供も指定しておいた方がリスクを回避できるでしょう(電子出版物の提供については弊所Q&Aをご参照ください)。
このように、重要論点を含み、今後の実務に影響力がある本件「知財実務オンライン事件」は、商標登録出願を代理する弁理士には必読の裁判例だと確信しています。
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