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2019.03.02

Vol. 17 (ルイスポールセン)

平成29年(ワ)第22543号 商標権侵害行為差止等請求事件東京地裁

詳細

 

1.結論

被告製品の販売等は商標権を侵害するとして差止及び損害賠償441万2586円及び遅延損害金が認められた(商標法3条1項3号、同条2項、4条1項7号等)。

 

2.概要

立体商標の商標権に基づいて権利行使が認められた事例である。侵害の前提として本件商標と被告商標との同一性及び商品の類似性が認められたが、この点は明らかであるため説明は割愛する。被告は本件商標登録の無効理由の抗弁を行ったが、被告の主張はいずれも退けられた。

 

特に重要な論点として、自他商品識別力(3条2項)が争われたところ、本件商標(形状)は、原告の商品として需要者に広く認識されていたとして識別力が肯定された。周知性の認定においては、本件商標の特徴、40年間の継続販売実績、本件商標を印象付ける広告が繰り返された事情等が考慮された。

 

また、被告は原告が業務妨害するために商標登録したとして公序良俗違反(4条1項7号)を主張したが、模倣品を排除するための原告の行為は何ら不当ではないとして同号に該当するとは認めなかった。

 

3.コメント

商品の立体的形状については本来的に自他商品識別力がなく、一部例外的ケースを除き、商標登録できない。また、商品の立体形状を守るのは特許権・実用新案権及び意匠権であるため、これらの権利がなければ自由に販売できることが多い。ただし、周知な立体的形状については、商標登録できるし、不正競争防止法にも抵触する。被告としては、原告に権利(特許権・実用新案権・意匠権及び商標権)がないから自由に販売していいという認識で販売していたのに後から商標登録されて販売できなくなったため、少し気の毒である。とはいえ商標法及び不正競争防止法の知識が充分なかったという点は何の言い訳にもならない。

 

本件商標の周知性については、別事件でも争われている。本件商標登録に対する無効審判及びその審決に対する審決取消訴訟(平成30年(行ケ)第10004)で争われ、周知性の判断内容は概ね本件と同じである。また、本件商標(PH5)と異なる形状のランプシェード(PHスノーボール)についても同時期に周知性が争われているが(平成30年(行ケ)第10005)、その件では周知性が否定されている。周知性の基準について参考になるため、両者を以下に対比する。

  PH5PHスノーボール
周知性無(特許庁では有)
使用期間40年間29年間
販売実績/th>・16年で販売数量7万4627台(年平均4664台)
・近年増加傾向ある・17年間で5759台(年平均339台)
・一時的に飛躍的に増加した事情なし
形状の特徴独特で特徴的独特で特徴的
宣伝広告・使用態様・多数のカタログ及び雑誌でPH5の形状を印象付ける広告が繰り返しされた
・同カタログ及び雑誌で世界のロングセラーを強調する文言
・カタログ及び多くの雑誌で他の商品の写真と同程度の大きさで、PHスノーボールが特に目立たない
・目立つ態様が示された雑誌の発行部数・購買層不明
市場シェア約0.04%(同じ価格帯の商品については不明)約0.003%(同じ価格帯の商品については不明)
その他教科書に掲載・グッドデザイン外国商品賞受賞在日デンマーク大使作成の陳述書にPHスノーボールが需要者に認知されている旨の記載あり

 

2つの事件を比較すると、目立つ態様で形状を印象付ける広告が繰り返しされたか否かによって結論が異なったといえる。

 

周知性判断のためには、市場シェアが重要であるとされている。しかし、本件商標(PH5)では市場シェアが0.04%程度であることは識別力獲得を否定する根拠とならないと判断している点が注目に値する。

 

また、特許庁は使用期間を大きく考慮する傾向があるのに対して、裁判所は特別大きく考慮しない傾向があると思われるところ、PHスノーボールの事件ではその傾向どおりの結論となっている。本件侵害訴訟の原告としては、早い段階でPH5及びPHスノーボールの商標登録をしていなかったことが悔やまれる。早く登録しておけば、訴訟時には除斥期間(5年)が経過して識別力に基づく無効理由の抗弁をされなかったかもしれないし、警告書等の経緯を見ると、そもそも訴訟になる前に解決に至ったかもしれない。

 

この事件はK弁理士のリクエストに基づいて紹介しました。Kさん、リクエストありがとうございました。

 

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