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2022.11.12
「たこ焼工房」商標権侵害事件~ビジネス上で超大事な教訓を解説~
こんにちは!商標大好き「おのの真弓」です♡ 前回の記事『「餃子の王将 vs 大阪王将」事件~昭和と平成の裁判を”どこよりも深く”解説~』はご覧いただけましたでしょうか?内容は小難しいのですが、餃子好きの方は是非見てみてくださいね♡
さて、今回のテーマは「たこ焼き」です。餃子と並んで、皆が大好きな国民的グルメ♡♡♡
店舗や屋台で食べるたこ焼きは格別ですし、冷凍たこ焼きもとっても美味!私の子供も大好きで、いつもお世話になっています♡素晴らしい発明品です…!
国民的グルメが故に、世の中には様々なたこ焼きがあります。
たこ焼きの元祖は昭和10年に誕生したと言われており、国民に80年以上も愛されてきました。(参考:たこ焼きトリビア|お台場たこ焼きミュージアム)
これはつまり、様々な事業者がたこ焼きに関わる商いをしてきたことを意味します。すると商標として使いたい名前がどうしても似てしまい、紛争が起きてしまうこともありそうですよね。
そこで本記事では、「ゆるカワ♡商標ラジオ」で紹介した商標権侵害訴訟「たこ焼き工房事件」の要点や、ビジネスを行う上で超重要な教訓について説明します。事件詳細や軽快なトークは是非 Youtube 動画をご覧ください♡ 動画においては、特別ゲストとして原告である山口滋巳さんにお話を伺いました!山口さんの人生物語も必聴です♡
概要:被告が先に「蛸焼工房」を商標登録していた!
原告:株式会社山福(保有商標権:登録第5,883,054号)
被告:株式会社三光食品(保有商標権:登録第4,653,322号)
【争いのない事実】
・被告が先に「蛸焼工房」を商標登録していたが、指定商品・役務(*)が、たこ焼きのイートインを包含する「43類 飲食物の提供」 等のみであった。一方、後発で商標登録出願を行った原告は、たこ焼きのテイクアウト販売を包含する指定商品「30類 たこ焼」 等にて商標「たこ焼工房」を登録した。
・被告はたこ焼きのテイクアウト販売も行っていた。
・「蛸焼工房」と「たこ焼工房」は類似している。
【主な争点】
・被告は先使用権(**)を有し、「蛸焼工房」の使用が不問となるか?
被告に「先使用権」が認められるための要件(先に使っていれば必ず認められるわけではない!)
・原告の商標登録出願時(2016年4月)に、被告の商標「蛸焼工房」が消費者(***)の間で広く認識されていること。
・被告が日本国内で不正競争の目的でなく商標「蛸焼工房」を使用していること。
(*) 商標登録を行うにあたり、「商標」をどの分野で使用するかを定める「指定商品・役務」を特定する必要がある。例えば同一類似の商標だとしても「指定商品・役務」が同一類似でなければ、二以上の者に権利が付与され得る。役務=サービス。
(**) 先使用による商標権を使用する権利(商標法32条)。
(***) 似た意味ではあるが、条文上では「需要者」と定義されている。
事件のまとめ:商標「蛸焼工房」の先使用は認められなかった…!被告の屋号&看板は変更へ
・商標「蛸焼工房」を使用する行為は、登録商標「たこ焼き工房」に係る商標権を侵害しており、被告は原告へ損害賠償金116万円以上(****)を支払うこととなった。
・被告は商標「蛸焼工房」を1999年1月から使用し、原告の出願前において42店舗を展開し、年間売上は14億円超え。しかし、当該商標が「消費者の間で広く認識されている」とは判断されず、先使用権が認められなかった。
・被告は「蛸焼工房」から「蛸家くるり」へと屋号&看板を変更した(令和2年6月, 会社沿革|株式会社三光食品HPより)
(****) 116万5027円並びにうち7415 万8940円に対する平成31年2月24日から支払済みまで年5%の割合による金員,うち35万8284円に対する令和2年8月13日から支払済みまで年5%の割合による金員及びうち5万7803円に対する令和2年8月13日から支払済みまで年3%の割合による金員
教訓①:商標登録は区分及び指定商品・役務の選定が超大事!~飲食業界はイートインとテイクアウトに要注意~
本事件から学ぶことができる教訓の1つは、「指定商品・役務の選定は超大事!」ということ。
被告による商標登録では「第43類:飲食物の提供」等が指定されており、たこ焼きの販売行為を示す内容として一見問題が無さそうである。しかし、「飲食物の提供」は、店舗内において飲食物を消費してもらう「イートイン」を意味しており、店舗外へと飲食物を持ち運ぶ「テイクアウト」は意味していないのだ。テイクアウトを権利範囲にしたい場合、「第43類:飲食物のテイクアウト」とすることはできない。「第30類:たこ焼き」を指定する必要がある。
他にも、コーヒー等の飲料分野や、ハンバーガー等のファストフード分野においては同様のケースが想定される。商標登録出願を行う際には、商標を使用する場面や将来のビジネス展開も含めた上で「指定商品・役務」を検討していくことが肝要である。
なお、指定商品・役務について抜け漏れがあった場合は、同一の出願人であれば、追って新たに出願&商標登録することも可能である。ビジネスの発展に伴い、定期的に商標の見直しをする機会を設けるのがよいだろう。
教訓②:商標の「先使用権」が認められるハードルは高い!~たこ焼屋42店舗&売上14億円/年でもダメだった・・~
もう一つの教訓は「先使用はハードルが高い!」ということ。
15年以上に渡りビジネスを行い、複数の都道府県にまたがり42店舗展開し、年間売上14億円以上・・・これだけ聞くと、被告の「蛸焼工房」はよく知られたたこ焼屋さんであり、商標の「先使用権」が認められるという印象を持つ人が多いかもしれない。筆者もそう感じた。
しかし判決文には、例えば以下の記載がある。(SC:ショッピングセンター)
”引用”
しかも,基本的には SC 内,しかも多くは地域密着型の総合スーパーマーケットに出店し,単独で又は他のファーストフード店その他の飲食店と共に,専門店として1階に位置し,店舗出入り口付近又はフードコートに配置され,たこ焼き,お好み焼き,たい焼き,焼きそば,フライドポテト,杵つき団子,ソフトクリーム等を主要な取扱商品とするという被告店舗の出店態様等(前記(1)イ)を考慮すると,その来店客は,基本的にはスーパーマーケットを中心とする SC 内の他店での買い物を目的とする買い物客のうち,買い物の合間の食事や持ち帰りの軽食として手軽に食べられる飲食物を購入するために来店する者が多数を占め,被告店舗での購入を主要な目的として来店する者は必ずしも多くないものと推察される。
平成31年(ワ)第784号 判決文より
”引用”
SC 内の店舗では、買い物客が被告の商標を認識しているとは限らないとのこと。その他、愛知県内にはたこ焼屋が500店舗以上存在すること等も考慮され、被告は「先使用権」を有しない旨が判示された。つまり、売り上げ金額が高かったとしても「先使用を認められる程の有名さではないよ」ということである。
店舗数や売上高の数字から「先使用権」があるのではないか!?と考えてしまったが、それらはあくまでも「消費者に広まっているか否か」を判断するための一指標。当該権利を有するか否かは、取引の実情を総合的に考慮して判断されるということだ。
商標の世界は実に奥が深い・・・だからこそ面白いのである。
雑感 ~たこ焼きが商標弁理士の重要さを教えてくれた~
被告は「43類 飲食物の提供」 等にて商標登録していた。そして実際に、たこ焼き等を提供する商いをやっていた。いずれも何ら問題のある行為ではない。自らが商いに使用する名前やロゴを商標登録すること自体は、むしろ取引秩序をもたらす好ましい行為である。商いの領域を示すことで、他社との紛争予防にも繋がるためだ。
しかし今回、裁判へと至ってしまった。商標制度が完璧でないが故の紛争と言えるだろう。世の中に「完璧」や「絶対」など存在しないということだ。
大局的にみれば、商標制度が社会生活に必須であることは言うまでもない。いかなる市場取引においても、名前やロゴ等の知覚に訴える要素が関わるためである。名前やロゴに関する紛争をなるべく防ぎ、健全に取引を進めるために商標制度が存在しているのだ。
では、どうすれば商標権の紛争リスクを低減し、皆が秩序を保ちながらビジネスを進めることができるのだろうか?
その第一歩は、商標弁理士に相談すること。これは「絶対」である。
・・・
世の中に「絶対」は存在しないとの前言は、プロが作るたこ焼きの如く ”くるり” と回転させて撤回しよう。
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