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2018.08.19

Vol.3(医の心)

平成28年(ワ)第28591号 侵害訴訟

 東京地裁

 

関連条文:商26条1項6号

 

 

1.概要

登録商標の使用例及び被告の役務内容を考慮の上、商標的使用でないと判断され、商標権侵害でないとされた。具体的には、以下の認定に基づき商標的使用でない旨の判断が
なされた。
・「医の心」は、文言から医師の心得の意味が自然に理解でき、かつ、従前から医療関係の書籍や番組等で頻繁に用いられており、医師ないし医療の心得を意味する
・「医心」は「医の心」の短縮語と解され、医術の心得の意味で一般に使用されている
・被告の提供する役務が、医学部受験のための知識ではなく、医師としての心構えや素養を養うことを目的としたカリキュラムを提供している

 

2.コメント

裁判所は、「医の心」の文言及び使用例から特定の意味を有すると認定したが、使用例はわずか5つであった。このうち2つは出願から25年以上前であったことを裁判所は、わざわざ記載しており、かつ、「従前から…頻繁に用いられており」と述べている。また、使用例のうちの1つ『心臓外科の権威とされる医師による「医の心」という書物によること』も強調されている。これらのことから、裁判所は、現在のみならず昔からの使用や権威のある書籍による使用を強く考慮していることが伺える。「医心」に関しては、広辞苑に掲載されているだけで一般的に用いられていると認定しているように見える。

判決文からは、原告は、「使用例が少ない」とか「一般的でない」といった主張をしていないように見受けられるが、主張していれば結論が変わったのか気になるところだ。

いずれにしても、本件は、「医の心」及び「医心」の本来的識別力まで否定されている事案ではなく、被告の役務の内容が登録商標の上記認定された意味と合致していたことが、識別標識(商標)として使用されていないとの判断に大きく影響したものと思われる。当該役務が医学部受験のための知識の向上を目的としていた場合、結論が変わったかもしれない。したがって、仮に本件登録商標の本来的識別力が争われた場合、“識別力あり”という判断も充分あり得るであろう。いいかえれば、必ずしも特定の意味を生ずるとはいえず登録適格を有する商標であるとしても、使い方によって識別機能がなくなることもあるということだ。

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